【第16回】西村 賢さん(Coral Capital Partner & Chief Editor)-前編-
2021.07.15
編集のスキルやテクニックは、世の中に思われている以上に大きな価値がある(前編)
主にシード期のスタートアップに投資する独立系ベンチャーキャピタルのCoral Capitalは、起業家を次のステージに導くための様々なサポートを提供しています。その中でもPRは力を入れている活動の一つ。起業家の成長を促す様々なコンテンツを提供するCoral Insightsで、編集長を務める西村賢さんにお話を伺いました。今回は前編としてCoral Capitalに入る前のお話をお届けします。
■Coral Capital Partner & Chief Editor 西村 賢さん
■プロフィール
早稲田大学理工学部物理学科在学中から月刊誌で連載を持ち、卒業後はアスキーの編集・記者としてネット・デジタルを幅広く取材。2006年にアイティメディアへ入社、ITエキスパート向けWebサイトの「@IT」で副編集長としてエンタープライズITやソフトウェア技術の動向だけでなく、DropboxやAirbnbなどY Combinatorの創業者らを数多く取材。2013年にTechCrunch Japan編集長に就任し日本のスタートアップ、起業家らを数多く取材。約5年間で年次イベント「TechCrunch Tokyo」の来場者数を3倍にするなど日本のスタートアップエコシステムの成長にメディアとして貢献。2018年Googleに入りスタートアップ支援や投資関連業務に転身、2019年8月から現職。
1年間の休職をきっかけに身に付けた英語力
― 西村さんのことを知っている人も多いと思いますが、経歴から教えてください。キャリアの最初から編集の仕事をしていましたよね。
西村 賢さん(以下、西村) 大学では物理専攻でした。学生時代はコンピューターが好きすぎて、当時たくさん出ていたパソコン雑誌でライターを始めたのが、今に至るキャリアのきっかけです。その流れで卒業後はアスキーに入社しました。
― 西村さんと言えば英語が得意というイメージです。それは留学経験があるからですか。
西村 正規の留学ではありませんが、アスキー時代に1年休職して米国で勉強した経験はあります。当時から英語ぐらいはできないとねと思っていて、であれば1年ぐらいガッツリやろうと思ったんです。仕事でも英語を使う場面があったので、渡米前から勉強はしていて、当時のTOEICのスコアは900でした。じゃあ後は練習だと思って米国に行ったものの、現実は違っていましたね。1年間めちゃくちゃ勉強して、帰国後も5年ぐらい勉強を続けました。今は冷や汗をかくことなく自分で英語の取材ができて、会議もできるし、ディスカッションも困りません。
― その勉強法のポイントをざっくり言うと?
西村 英語の話をすると1時間以上かかるので、1つだけ挙げるとすると「ドラマを観ること」。これはものすごくおすすめです。まず英語字幕にして英語でドラマを観られるようにする。TOEICのスコアで言うと950ぐらいでしょうか。結構ハードルは高いですが、そこから5年ぐらいやるとかなりわかるようになり、徐々に話せるようになると思います。
― 広報の人たちも英語の勉強はするべきでしょうか。
西村 どんなキャリアを志向しているかにもよりますが、英語は汎用スキルなので良い投資じゃないでしょうか。一般に想像するより、年齢はさほど関係ないと思います。スタートの年齢が早い方が有利ですが、35歳くらいからでも全然できると思います。語学はやる長さの方が重要です。それから自分の適性と希望にマッチしているか。広報の人たちはコミュニケーションを得意としているので、適性のある人にとっては有利な投資になるでしょう。とはいえ、1・2年でなんとかできると考えない方がいいですね。
事前予測しての実現は難しいイマドキのキャリア構築
― ありがとうございます。この辺りでご経歴の話に戻りましょうか。
西村 アスキー時代は紙とWebの両方を経験しました。当時はコンシューマーが使うデジタルを扱っていましたが、徐々に時代は変わり、会社がITを使う世界が大きくなっていました。そのタイミングでアイティメディアに移り、企業向けのテクノロジーを取材する記者になりました。ITを会社が使うときには、コンシューマーの場合とは違う問題がある。そこが面白くてソフトウェアエンジニアリングにも興味を持ちました。当初の取材先はIBMやOracleなどが中心でしたが、Googleなどを取材するうちにアメリカのスタートアップや起業家との接点が増え始めたんです。スタートアップはこれからの世の中を動かすトレンドになるかもしれない。そう思っていたところにTechCrunchから誘いがあり、2013年から日本版の編集長をやることになりました。2018年まで編集長を務めた後、Googleに移ります。当時のGoogleは日本でスタートアップの支援拠点を立ち上げようと計画していて、その旗振り役をやってほしいと声をかけてもらいました。
― 西村さんの転機には、いつもどこかから声がかかりますね。そしてバッターボックスに立てる準備が整っている。
西村 メディアは観察者なのでバッターボックスに立っているとは思っていませんけどね。ただ言えるのは、今の時代のキャリアは事前に設計できるような類のものではないのかな、ということです。例えば僕がキャリアをスタートした頃は、「スタートアップ」という言葉は影も形もなかった頃です。その時々で自分が楽しく、得意なことで社会に貢献できること、最もインパクトが出せる仕事は何かを考えながら、少しずつつないで今があります。Coral Capitalには創業パートナーCEOのJamesに誘われ、入社しました。
― Googleをやめる時、周りの人から「もったいない!」と言われませんでした?
西村 キラッキラッの会社ですしね。でもスタートアップ界隈の人たちからは「西村さん、おかえりなさい」と言われました。Googleの社員でいると、「Googleの西村」としては発言できない。個人の西村としてはご自由にどうぞというスタンスなんです。まあ、当然ですよね。日本のスタートアップ業界に貢献しようと思ってGoogleに入りましたが、Coralであればコンテンツで貢献できる。外から見て、Coralの情報発信のやり方として「ここがもったいない」と思っていたところの改善を今やっています。
後編に続く
聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成:冨永裕子