【第12回】TechTargetジャパン 鳥越編集長(アイティメディア株式会社)
2019.09.09
華やかではない、IT業界の縁の下の力持ちを支えるTechTargetジャパン編集部の考える広報PRとのコミュニケーションとは?
広報PR担当者であれば、必ず知っておきたい個々の媒体特性。しかし、意外と理解しているようで知らないことも多いのも事実です。
各メディアの方がいま取り組んでいること、広報担当者に感じていること、これからの在り方など、ぜひお伝えできればと思います。
今回お話を聞いたのは、2019年4月より編集長としてご活躍中のTechTargetジャパン編集長鳥越さんです。編集部として強化していきたいと考えているテーマをはじめアイティメディアの媒体同士の棲み分けなど、BtoBのIT業界を長く見てきた鳥越さんならでは視点から広報PRに向けたメッセージをお伝えできたらと思います
鳥越 武史さん(とりごえ たけし) アイティメディア株式会社 TechTargetジャパン編集長
東京都出身。2008年、株式会社インプレスホールディングスに入社。IT Leaders編集部に配属、エンタープライズIT領域担当。2011年10月、アイティメディア株式会社 TechTargetジャパン編集部に移籍。2016年7月、同メディア副編集長に就任。2019年4月、TechTargetジャパン編集長に就任。
TechTargetジャパンの位置付けとその役割
ー 鳥越さんの今までのキャリアをお聞きしたいのですが、もともとメディアでの就職を希望されていたのですか?
鳥越 武史さん(以下、鳥越):大学院を卒業した後、新卒で株式会社インプレスホールディングスに入社しました。ただメディア業界を志望していた訳ではなく、工学部を出たこともあって、ITが好きだったんです。IT業界を広く観たいと思って、銀行やコンサルなどIT業界に広く携わる業界で探していました。その中の一つがメディア業界でした。
ー インプレスの編集部というと、業界の重鎮というか有名な方がたくさんいらっしゃる編集部ですね。
鳥越:はい。新卒で入ったのが編集部で何も知らずに入ったので、本当に恵まれた環境だったと思います。文章もほとんど書いたこともなかったので、入社当初は勉強の毎日でした。入社する前はインプレスでは記者職というより、企画を立てたりする編集のイメージが強かったのですが、先輩たちに取材のイロハを教えていただきました。大学院の頃は、主に研究室にこもって研究ばかりしていたこともあり、編集記者になって人に会う環境が求められるのは新鮮でした。自分は人に会うのが好きだったんだと初めて気がついたのもこの頃です(笑)。
ー 紙の雑誌からWeb専業のメディアに移られて、どういった変化がありましたか?
鳥越:大きな違いは締め切りのタイミングです。雑誌は一ヶ月に1度の締め切りなので、短距離走に例えられることがありますが、Webは小さな締め切りがたくさんあるので、マラソンといったイメージでしょうか。ただ大きな違いはなく、あまり違和感はありませんでしたね。
私の場合は、前職でWebメディアも担当していたというのもあるかもしれないですが、比較的スムーズに対応できたと思います。読者の反応がダイレクトに伝わるのがWeb編集の醍醐味とも言えます。
ー やはり随時記事のアクセスはチェックしているんですか。
鳥越:PVや会員数の推移はツールを活用してウォッチしていますが、TechTargetジャパンはどちらかというと解説記事を充実させることで会員数を増やしていけたらと考えており、PVの増加のみが評価されるような媒体ではありません。
会員数とPV数の両方を見た場合、万人受けする記事はPVは増えるけれども、会員数はそれほど増えなかったりします。その一方でPVが爆発的に多いわけではないけれども、ニッチな医療や教育といった専門分野のシステム導入記事などは会員になる人が増える傾向があります。この辺りは難しいですが、やりがいもあり面白いなと思います。
ー 御社の場合、いくつかグループの中でも領域が重なっている媒体もあるように見えるのですが、改めて、TechTargetジャパンの位置付けや読者層を教えてください。
鳥越:TechTargetジャパンは、ユーザー企業のCIOや情報システム部門の担当者といった導入決裁・選定に関わる人に向けた記事を提供しています。扱う内容は、システムやインフラ周りであったり、導入記事や比較選定に役立つ情報ですね。他のアイティメディアの媒体と異なるのは、海外のTechTargetとも提携しているので、国内だけじゃなく、海外の記事も多めに取り上げている点です。
ー よく聞かれるかもしれませんが、キーマンズネットとの棲み分けはどのようにされているのですか?
鳥越:ご質問にあった「キーマンズネット」との棲み分けですが、我々のやっているTechTargetジャパンと@ITはどちらかというと、サーバとかセキュリティといった全社規模の「社内インフラ領域」を扱うことが多いです。一方でITmedia エンタープライズとキーマンズネットは、事業部門のIT担当者に向けた「業務系のIT領域」という分け方になります。
ー TechTargetジャパンの今後増やしていきたいテーマなどあれば、教えてください。
鳥越:やはり全社ITのインフラ周りですね。特にオンプレミスを中心とした、SoR(Systems of Record)と親和性の高いインフラですとか、DX(Digital Transformation)を進めていくために、既存のインフラをどう改善していくかというITインフラモダナイゼーション等は積極的に取り上げていきたいと考えています。
ー まさに縁の下の力持ち的な部分のお話ですね
鳥越:そうですねえ。SoR領域は主にTechTargetジャパンで、SoE領域は主に@ITで取り上げる方針なのですが、今の時代はそれらを完全に切り離して考えることはできないので、クロスオーバーするところは、もちろんあります。
ー 職業柄お客様からTechTargetジャパンにホワイトペーパーを登録すると良いリード(見込み客)に見ていただけるというようなお話も聞くのですが、何か特別なことをされているんですか?
鳥越:ホワイトペーパーに関しては、コピーライティングの専門コンサルタントがレビューをしています。そういった仕組みもあって、良質なリードにつながっているのかもしれませんね。
ー 編集部の体制についても教えていただけますか?担当分けなどはしているのでしょうか。
鳥越:業界的に1〜2人の小規模編集部もありますが、うちは編集長と編集アシスタントも含めて7名の体制でやっています。担当ジャンルごとに編集記者が分かれています。
TechTargetジャパンでは「クラウド」「サーバ&ストレージ」「ネットワーク」「システム運用管理」「セキュリティ」「データ分析」「中堅・中小企業とIT」「医療IT」「教育IT」が、おおまかな担当ジャンルですが、クラウド領域とそのほか幅広く見ている編集記者も一人設置しています。
最近は、新卒や第2新卒くらいの若いスタッフも増えてきていて、編集アシスタントも含めて男女比も女性比率が半分以上です。編集記者のバックグラウンドも様々ですので、ある意味ダイバーシティ編集部といえるかもしれません。
ー ジャンルの見直しや変更のタイミングについて教えてください。テーマはどう決めているのでしょうか?
鳥越:クラウドやセキュリティといった大まかなジャンルはざっくりと長期的に見て変わらないものにして、その中でテーマを変更するようなイメージでしょうか。
より具体的にいうと、5〜10年くらいはブレないジャンルにしていて、その中で、世の中の動きを見ながら、向こう3ヶ月のテーマを決めています。
左:加藤 恭子(ビーコミ) 中:鳥越 武史 氏 右:高橋 ちさ
ニュースの速報性やスピードは重要ではない、必要なのはコミュニケーション
ー 企業広報の方が訪ねてきた場合どういう情報提供のスタイルだとコミュニケーションを取りやすいなどありますか?
鳥越:やはり編集者によって異なると思うので、無理を承知で申し上げると、コミュニケーション方法を各編集者に合わせていただけるとすれば、それが理想的だと思います。PR代理店の方によっては、媒体で扱っていない分野のプレスリリースをお送りいただいたり、お電話いただいたりする場合もあります。企業向けの媒体に、コンシューマー向けの情報をお送りいただくなどです。個人的にはウェルカムですが、編集記者によっては迷惑だと考える人もいる可能性がありますので、よく見極めていただいた方がPR代理店の方にとっても、編集記者にとってもよいと思います。
我々の媒体も記事を見るだけでは理解されにくいところもあると思いますので、私自身はお電話をいただいたり、直接お会いするのは全く苦ではありません。対面でのブリーフィングから記事になることも多々あります。その場合はもうすでにある程度まで企画が進んでいるという前提ですが。なので、PR代理店の方からMTGを求められた場合、必ずというわけではないのですが、なるべく時間を作るようにしています。
ー TechTargetジャパンはニュース媒体ではないと思いますが、プレスリリースに関しての扱いはどうですか?
鳥越:ご理解いただいている通りTechTargetジャパンはニュース媒体ではないので、リリースに関してはプッシュ型のニュースネタというより、データベースやファクトチェックとして使うこともあります。
送っていただいたリリースを見ながら、直近の流行りというか、盛り上がっているキーワードなどをチェックしたりします。
自分に送っていただいたリリースや情報であっても、他の媒体や編集記者の方がマッチするケースもありますし、個人だと見落とす場合もあるので、共通のアドレスと個人アドレスの両方に送っていただくと助かります。お電話いただく場合は、その時の担当編集記者の状況もあるので、なんとも言えませんが、情報自体は積極的に送っていただけるとありがたいです。
情報をいただく際にも、この情報は@ITなのかTechTargetジャパンなのか、それとも他の媒体なのかを判断するのが難しい場合は、ご相談いただければと思います。
ー 個別説明の場を設けるスタイルや各メディアを一斉に集めて行う場合などもあると思いますが、発表会に関してはいかがでしょう。
鳥越:発表会に関しては、媒体ごとの特性にもよると思いますが、TechTargetジャパンの場合はニュース媒体ではないですし、発表会の内容をそのまま記事にするということはあまりないです。もともと「そのテーマで記事にする」と決まっていて伺うケースもありますが、直接記事にするかはわからないけど、興味のある編集記者に伝えたり、業界動向ウォッチのために伺うケースが多いです。
個別説明や勉強会の場合は、個人でお話をお伺いすることで記事化されるかもしれない、と期待される方もいらっしゃるかもしれません。うちのようなストック型記事を掲載するメディアの場合、必ずしも記事化前提ではないことをご理解いただいた上でお声がけくださると大変ありがたいです。
ー 新規性という点ではニュースバリューが落ちてしまうので、プレスリリースも発表会も、タイミングを逃すとご紹介しにくいケースがありますよね。企画っぽい感じでまとめて提供した方が良かったりしますか?
鳥越:TechTargetジャパンは時間に関する考え方がニュース媒体とは異なりますので、「早く知る」という点は重要ではありません。それよりも、事例でも新製品でも発表した後のことの方に興味があります。事例であれば、導入直後だと分からない、システムを入れた後の変化の方に注目したいと考えています。入れたことで、こんなに売り上げが伸びたとか、こんな課題が出てきて失敗に終わったとか。TechTargetジャパンを読んでくださる読者のニーズにマッチするのは、最新情報のプラスアルファの部分だと認識しています。
企画を送ってもらうというよりも、ひとつのファクト情報だけではなく、いろんな追加情報や新たな視点からの情報をいただけると、企画につながる可能性は高まると考えています。広報PR担当の方と編集記者との、ある意味腹の探り合いみたいなところはありますが。
TechTargetジャパンとしては、導入後どうなったかの話に価値を感じます。導入後、半年から1年くらい利用された状況なども付加情報としてお伺いできると企画のタネになります。 元々持ってきていただいた情報じゃなくても、直接お会いしてお話しているときに出てきた情報に「それ、面白いかも」と気づくケースもあります。実はいま掲載されている事例記事は、結構そのパターンがきっかけになっていること多いです。
ー 最後に広報PR担当者に向けて一言お願いします。
鳥越:広報PR担当の方からすると、持ってきてくださった情報が直接記事になる方が嬉しいと思うのですが、こんな事を話しても記事にはならないかもしれないと思うようなことでも構いませんので、出来れば追加情報として色々な視点でお話いただけるとありがたいです。記事化という意味では遠回りのように見えますが、実はそれが最短距離になるかもしれません。
最近は若手の広報PR担当の方でも、ご担当のクライアントのことだけでなく周辺分野をよく勉強されている方が増えているように感じます。こちらもお応えできるように、勉強しなくてはと励みになります。
ぜひ広報PRとメディアと協力して、みんなで業界全体を盛り上げていきましょう。
鳥越さん、ありがとうございました。
聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成:高橋ちさ