【第10回】織茂 洋介 さん (アイティメディア株式会社 プロフェッショナル・メディア事業本部 編集企画局 IT編集統括部 ITmedia マーケティング編集長)- 前編 -
2019.06.19
“デジタルを扱う紙メディアの人”からWebメディアに転身、 マーケターの「そこが知りたかった」に応えたい
今回は、ITmedia マーケティング編集長の織茂洋介さんにデジタルマーケティング業界のトレンドや媒体概要などについてお話を伺いました。ざっくばらんに思うところをお話しいただいたインタビュー、今回は前編です。
雑誌編集者からWebメディアへ
加藤 織茂さんがインターネットのデジタルマーケティングのメディアで活躍されるようになったきっかけは?
織茂 そもそもメディアの世界に入ったところからお話してもいいですか。ずいぶん長くなりますけど(笑)。
加藤 どうぞ。
織茂 雑誌の編集者になりたくて、大学卒業後にフジテレビ子会社の出版社である扶桑社に入社したのですが、最初は広告を扱う営業推進部に配属されて広告進行の仕事をしていました。
担当していたのは主婦向け雑誌のESSEです。その頃は75万部くらい売れていて、広告も収容しきれないほど多く入っていました。雑誌の景気が良かった時代でしたね。
加藤 それから週刊SPA!へ移られて。
織茂 そこで特集ページから芸能人インタビュー、サブカル連載まで、さまざまな企画に関わらせてもらったわけですけど、その中で「デジタルハーレム」というデジタルガジェットやビデオゲームについて扱う連載を先輩と2人で担当していました。「デジタル」といってもWindows 95が出て間もないくらいの時期で、インターネットはダイヤルアップでしたが(笑)。会社がPCを支給してくれることもなく、自腹で買った(レノボではなく)IBMのThinkPad 535は40万円くらいしたはずです。まだ茫漠としてはいたけれど、「インターネットが切り開く未来」的なものにはすごく関心がありましたね。
加藤 SPA!にはどのくらいいらっしゃったんですか。
織茂 3年くらいでしょうか。あるとき編集でない部署に異動の話が出ました。当時あった女性誌のサブ媒体的に立ち上がっていた会員制Webサイトの運営に携わることになったのです。インターネットに未来を感じていたのだから不満はないだろうと思われるかもしれませんが、当時の自分としては、もう少し雑誌の仕事をやりたいという気持ちがありました。そこで求人情報を探すとソフトバンク子会社のソフトバンク パブリッシング(現在のSBクリエイティブ)で新雑誌創刊に伴う募集があったので、転職しました。インターネットのことを扱う雑誌の創刊ということで、「インターネットは好きだけどやりたい仕事は紙媒体の編集」という(ちょっと矛盾した?)自分の希望にピッタリかなと。
加藤 どんな雑誌を手掛けられていたのでしょうか。
織茂 Yahoo! Internet Guideという、当時すごく売れていた雑誌がありまして、その兄弟誌のYahoo!プレスという雑誌でした。しばらくしてソフトバンクがブロードバンド事業に参入したことに伴いYahoo! BBマガジンとしてリニューアルして、当時徐々に出始めていた動画コンテンツの紹介などをやっていましたね。NetflixもYouTubeもない時代にチャレンジングというか何というか。
加藤 書籍の編集もされていたんですよね。
織茂 はい。その後、インターネット革命の進展に従って、徐々にこの手の雑誌は役目を終えて消えていきました。同じ会社で書籍編集に転じてからはビジネス書などを作っていたのですが、やはりインターネットをテーマにした本を出したいと思っていて、ネット業界の有名人に書いていただきました。『次世代マーケティングプラットフォーム』『次世代コミュニケーションプランニング』などの「次世代」ものを何冊か出して、徐々に、今扱っているデジタルマーケティングの世界に近づいてきた感じですね。
加藤 先見の明があったということですか?その時デジタルマーケティングがブレイクしかけていた?
織茂 ちょうどネットがメディアとして確立してきて、広告の予算もついてきたところだったのでしょうね。ネット広告の出し方自体もベタ貼りの純広告から、メディアの種類ではなくて人にターゲティングして広告が出せるような、テクノロジーがマーケティングを変える予兆が見えてきたような時代でした。「個と繋がれる」「エンゲージメントを大事にしていこう」「コミュニケーションの作法が変わります」とか、担当していた本に書いてあったのは今となっては当たり前のことでもあるのですが、まだスマホ登場以前のことだったりしますので。
加藤 その後、2014年にアイティメディアに。
織茂 TechTargetジャパンに配属されて、エンタープライズITの世界に触れるようになりました。1年近くたったころ、前任の方の退職に伴ってITmedia マーケティングを預かるようになりました。前職で著者としてお付き合いしていた方が活躍する業界が取材対象となったという訳です。
全方位の力を借りてより良い媒体に
加藤 メディアを運営するに当たってどのような工夫をされていますか?
織茂 現状一人しかいない編集部なので、外部のライターの力を借りています。フリーランスの方以外に、ベンダーや代理店あるいは事業会社のマーケターの方に寄稿をお願いすることもあります。ポジショントークというか自社ビジネスの宣伝にならないようにご配慮いただきつつも、その領域の専門家として知見を披露していただくことは読者のためになることですので。さまざまな方にご参加いただきつつ、マーケティング業務に関わる方に「そこが知りたかった」と言っていただけるような記事をできるだけたくさん出していきたいと心掛けています。
加藤 マーケットリサーチを紹介する「調査のチカラ」(http://chosa.itmedia.co.jp/)も運営されているとか。他の媒体にはないので面白いなと。
織茂 調査のチカラには10万件以上のデータが蓄積されていますからね。地味ながらなかなかボリュームがあって、資料作成から朝礼のネタ探しまで、わりと幅広くお使いいただいているようです。ここから毎日マーケター向けのネタを拾ってITmedia マーケティングで紹介するということもやっています。
左:織茂 洋介 氏 右:加藤 恭子(ビーコミ)
広報さんにはスマートなアプローチを期待しています
加藤 広報の方が持ち込まれる時の作法とかルールとか、どうやったら話が早く進むとかこんな方法で持ってきてもらいたいとかありますか?
織茂 特にこうじゃなきゃダメというのはないと思うし、企画のご提案に関しては、基本的にはありがたくお話を伺います。記事になるかならないかは、読者のニーズがありそうか、きちんと実現できそうかというところに尽きますが。連載の場合だと、趣旨を固めた上で各回の仮タイトルを出していただいてから始めることが多いですかね。確認するのは私だけなので立派な企画書は必要ないのですが、どう進めるかのシミュレーションのために。そういったことを何回かメールでやりとりをした上で、実際に執筆をご担当される方を交えて対面でお話をさせていただくというパターンが多いですね。
加藤 広報のアプローチがうまいと思うケースはありますか?
織茂 それはありますね。そもそもの話としては、先ほど述べたように持ってきていただいた話が面白そうか、読者に有益かというところだけが重要なのですが、こちらが最初ピンとこなかった話でも、上手な広報さんだと、いつの間にか「どうすれば面白くできるかなあ」とこちらが考えさせられている(笑)。
加藤 そういうのはコミュ力が高いってことなんですよね。失敗する広報さんの場合、しつこく電話をかけてきて、ずれているネタを話して、コミュニケーションが図れない。
織茂 ITmedia マーケティングに普段どんな記事が載ってるか見ていないでしょうっていうのがバレバレなお問い合わせもときどきはあって、ちょっと残念な気持ちになりますね。そういうお問い合わせに限って、業務の集中しがちな時間帯に、しかも代表電話経由で入ってくることが多い。私だけならまだしも取りつぐ人の時間も潰すことになるし、スマートではないですよね。もちろん、わざわざ媒体を指名してお声がけくださるのは光栄なことだし、ありがたいと思っています。なので、こちらの都合を考えてほしいなどと偉そうなことを言うつもりは全くないのですが、よりふさわしい媒体を選んでいただきたいし、せっかくお話するならゆっくり聞けるタイミングで聞きたいと思います。
後編につづく
聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :石田仁志
写真 :村上福之