【第9回】安成 蓉子 さん(株式会社翔泳社 MarkeZine編集部 編集長)
2019.05.24
「マーケティングに困ったらMarkeZine」という存在に
日本では、かつての成功体験から長らく技術力や品質ばかりが重視されてきましたが、それだけではものが売れないようになり、マーケティングの重要性がようやく理解されてきました。そういった時代の流れの中で、マーケター向け専門メディアの草分け的存在として情報を発信し続けているMarkeZine(マーケジン)https://markezine.jp/ の編集長に就任された安成蓉子さんに、マーケティング視点でのメディアの本音、媒体の位置付けなどについてお話を伺いました。
編集長としてコンテンツ制作だけでなく、媒体のブランド強化にも注力
安成さんのこれまでの活動について教えてください。
安成 私は以前、専門商社で3年ほど営業を担当していましたが、元々編集者になりたかったこともあり、2012年4月に現在の翔泳社に入社しました。入社してからは一貫してMarkeZineの編集に携わっています。2015年4月から副編集長を務め、2019年4月に編集長に就任しました。仕事は編集業務だけでなく、イベントの企画からマネタイズまで、MarkeZine全体を統括している形です。編集長としてコンテンツの制作も担っていますが、制作統括だけでなく、ブランドマネージャーのような役割で媒体のブランド強化に注力しています。
MarkeZineはどのようなメディア活動を展開されているのでしょうか。
安成 MarkeZineは、マーケティング専門メディアで、掲載内容はB2CからB2Bまで幅広い領域をカバーしています。ただ、企画の根底には「データやテクノロジーの活用」という視点があります。「マーケティングに困ったらMarkeZineを見ればいい」と思ってもらえるような媒体づくりを心掛けています。また「マーケティングを経営ごとに」というミッションも掲げており、プレーヤー向けの情報から、事業をドライブするマーケティングの重要性を経営層へ伝えるコンテンツまで、幅広く発信しています。
メディアの立ち上げは2006年5月で、マーケティング専門のWebメディアとしては最も歴史があります。昨今のマーケティング領域への関心の高まりに伴い、コンテンツ領域や読者層の広がりを感じています。いい意味で活気がありますね。
そういった中でMarkeZineは、Webメディアの運営のほかに、イベント、定期誌、有料セミナー、書籍および電子書籍のシリーズも手掛けており、様々なカタチで読者のみなさまのニーズに応えられるようにサービスを展開しています。Webだけではどうしてもユーザーニーズに応えきれません。その分、イベントに来ていただければ市場動向が肌感覚でわかるでしょうし、セミナーに参加して対面の座学で学んでいただくことで、理解も深まります。
活況を呈する業界で必要な情報を適切に届けるために
確かにマーケティングやPRの重要性に対する理解度は高まっている印象ですね。
安成 業界が活況を呈するのと合わせ、マーケティング系のメディアも増えています。その状況で、本当に必要な情報を探すのは大変なことですよね。そこで私たちは、「MarkeZineには自分に適切な情報がそろっている」と思ってもらえるようなメディアを目指しています。必要な人に情報を適切な形で伝えたい。
例えば、Googleアナリティクス(GA)の使い方などがそうですけど、使い方自体はネットで簡単に調べられますが、読者の方一人ひとりの課題やフェーズによって、適切な情報の提供方法は異なります。そこでWebを入口として、セミナーや書籍など、様々なアプローチを通じて、それぞれの課題に応えられるようにしたいと考えています。
編集方針や編集作業の進め方について教えてください。
安成 私を含めて、MarkeZine編集部は8名で活動しています。自分が入社した当初は4名の組織でしたが、この7年で倍の人数になり、翔泳社の中で最も大きい編集部となりました。
若手を中心に、20代から40代まで幅広く在籍しています。担当分野は細かくは決めておらず、メンバーの個性が立っていることもあり、結果的にそれぞれの興味関心に基づいた様々な企画が出てきます。8人それぞれがイベントや定期誌、電子書籍と色々なアウトプットを出しています。媒体の方針として、「データを活用したマーケティング」という軸があるのですが、その軸さえ外さなければ良いというスタンスです。
プレスリリースは長期的な視点で有効に
広報担当者へメッセージはありますか?
安成 毎日たくさんのプレスリリースを送っていただくのですが、リリースはMessengerなどのインスタントメッセージでなくメールでもらえたほうがありがたいですね。すぐに編集部内でも共有できますし、後でキーワードを入れて検索することができるので、便利なのです。
その際によくあることなのですが、「(プレスリリースを)送ったのですが、届いていますか」と言う確認の電話は必要ありません。もし連絡するのであれば、到着確認ではなくて、プラスしたコメントもあると良いのではないでしょうか。「こういったプレスリリース出しました」だけでなく、例えば私たちに対してならば、「マーケティングの領域とはこんな切り口から関りがある」など、そこから一歩踏み込んだ説明をしていただけるとありがたいです。
そもそも企業が出すプレスリリースはどの程度記事になるものでしょうか。送っても反応がなくてがっかりしたと言う声も聞きます。
安成 MarkeZineではWebサイト上にプレスリリースの送り先を公開していますし、送っていただいたリリースはしっかりと見ています(https://markezine.jp/help/)。現在は簡易なニュースは1日10本程度アップしています。またより具体的な取材・寄稿企画などは、こちらのページから募集をうけています。https://markezine.jp/offering/
プレスリリースを出す意味は大きいと思います。その時点では掲載見送りになったとしても、将来の企画のタネになることもあります。実際に市場動向を見る上でどういったニュースがあるかを調べたりする際に、参考にしています。
また、ログとしても重要です。プレスリリースを見れば、その企業が何に注力しているかがわかります。製品やサービスを採用した顧客の成果も見えますし、長期的に効果を発揮するものでしょう。出す会社と出さない会社で、大きく分かれる気がしますね。編集者は企画を立てる際に、意外としっかりプレスリリースを見ています。
そのほかに情報収集はどのようにされていますか?
安成 SNSでつながってる業界の方々が発信している情報から、「この話題について、皆が共有しているな」などと分析しています。
もちろん、直接情報を取りに行くことも多いです。現場のマーケターの方々をはじめ、業界の有識者の方とお話をすることも多いです。取材先や著者のみなさんも、私たちにアイデアを提供してくれる貴重なつながりです。
また、マーケティングの世界は海外の方が進んでいるので、機会があれば海外カンファレンスの取材にも積極的に参加しています。
企画はどのように決めているのでしょうか?
安成 編集部員が企画をあげて、編集会議で決めるという形です。 その際に大事にしているのは、「どういった視点で選んだか」「読者にどんな新しい視点を提供できるのか」「どんな読者の課題を解決するのか」「ロジックがしっかりとあるか」などの部分です。
実はこれまでPVを追い求めてこなかったのですが、数字自体は大きく伸びています。見ているけど重視していないというスタンスです。PVが伸びると、編集部員のモチベーションは上がりますけどね(笑)
MarkeZineは無料で読めますが、会員メディアという形をとっています。公開から3日後の記事を全文読むためには会員登録が必要になります。「会員登録してでも読みたい」と感じてもらえる強いコンテンツを作れるか。そういった意味合いで、会員登録数を重視しています。
会見よりも企業イベントに注目、その理由は?
最近の取材活動について、どのような傾向がありますか?
安成 企業イベントの取材が増えてきましたね。PR担当の方から「イベントの取材どうですか」とお声がけいただくことも増えてきましたし、実際にそういった記事が読まれるという傾向にもあります。その背景には、コミュニティマーケティングがはやっているということがあるのかもしれませんね。
イベントの内容についてですが、例えば成功事例、お客さん同士のパネルディスカッションなどは記事にしやすいので、そういう企画がありましたらぜひ声をかけて欲しいです。
一方で、記者発表会にはあまり行かなくなってきています。極端な話、ニュースリリースが出るので、それを見ればニュースは書けるんですよね。行けば写真は撮れますが、(記者向けの)パッケージとして出来上がっているために、他メディアと横並びの記事になりがちということもあります。イベントの方が広報担当者以外の人とも直接話せて今後の記事につながるヒントも得られますし、座談会などでは本音の内容も聞け、MarkeZineならではのコンテンツを作ることができるので、良いと感じています。
そのような中、企業はどのようなアプローチで記者会見を行えば良いのでしょうか。
安成 ある会社で以前、「DMPとは何か」といったキーワードに関する記者勉強会を開催してくれたことがありました。新しいツールを発表するのであれば、単に製品発表ではなく、こういった形の会があれば嬉しいですね。次々と登場するテクノロジーやツールについて私たちも勉強しながらコンテンツ作成に向き合っているので、こういった機会はありがたいです。
そういった意味で、毎回新製品の発表会ではなくて勉強会や説明会を開催すると良いのではないでしょうか。それがすぐに記事にならなくても、その後の企画につながるきっかけになることもありますからね。
記者向けの啓蒙活動という意味合いも込めて会を催すと?
安成 もちろん自分で調べたり、勉強したりしていますけど、それとは別に記者も教えて欲しいと思っているんです。そういった意味で、人を集めるのであれば自社製品のアピールだけでなく、業界動向の説明もあるといいと思います。
そのような機会を提供してくれた企業に対して、信頼感を覚えますし、そのテーマで企画を立てる際などに相談することもあるのではないでしょうか。
今後伝えていきたいテーマは。
安成 2019年上期は、「BtoBマーケティング」「組織変革」「統合マーケティング」などいくつか注力テーマはありますが、「広報PR」もその一つです。広報PR領域もデータドリブンの波が起きていますし、マーケティング活動との連携は今後より重要になってくると考えています。
記事を出す際には、取材した相手だからこそできた部分と、その突出した部分あるいは成し遂げたことをどうやって行えたか、なぜ行えたかという部分を分析し、再現性を伴ったデータでしっかりと捉えて紹介していきたいですね。
広報PR担当者はコンテンツ作りのパートナー
改めて広報PR担当に伝えたいことをお話ください。
安成 広報やPRの担当者のみなさんは、メディアのコンテンツ作りのパートナーと思っています。広報さんからのアプローチのおかげで、カタチになったコンテンツもたくさんあります。
その一環として、MarkeZineでは取材・寄稿の企画を募集しています。サイト内メニュー「その他」の企画募集ページにテーマが記載されているので、応募していただけると嬉しいです。https://markezine.jp/offering/
安成編集長、ありがとうございました。
聞き手:加藤恭子(ビーコミ)
構成 :石田仁志