【第8回】柿野 拓 さん(株式会社コンカー マーケティング部 部長)
2016.05.31
「PRは経営の一部だと思っています」
大手ERPベンダーを経て、コンカーに入社した柿野さん。マーケティング部長としてマーケティングオートメーションやCRMに関するセミナーや記事で露出をされていますが、広報についてはあまり語っていませんでした。
つい先日、宣伝会議より「広報の仕掛人たち-PRのプロフェッショナルはどう動いたか」という書籍が発刊、コンカーのPR活動について明らかにしてくれました。今回は、柿野さんの考えるPRと具体的な活動、そして、PR会社とのつき合い方などについて語って頂きました。
大事なのは間をつなぐこと
私は広報とマーケティングを担当していますが、社長がビジネスを中長期でどう捉え、どうしたいか、そしてどうすれば実現できるのかを常に考えています。ゴルフのプレーに例えるとわかりやすいです。
社長は経営ビジョンを打ち出します。ゴルフで言えば、一打目をドライバーで打ち出します。華麗にフェアウェイに乗れば計画通りですが、一般的にはなかなかそうはなりません(笑)。なるべく先を見通し、一打目自体をきれいに打ち出せる支援活動やラフに入っても二打目でピン側にリカバリーできる環境を整えるのが広報であり、マーケティングだと自分は理解しています。社長の意思を十分に理解し、目となり手となり口となり、確実な実現にもっていくことが私の仕事です。
PR会社とのつき合い方
PR会社はメディアや個別の記者を熟知していますが、コンカー内での日々の変化や動きを完全に把握しているわけではありません。ゆえに、広報担当の役割は、会社として出したいメッセージとメディアのニーズのギャップを埋めることになります。
また、「要望に応えてくれるクライアント」とPR会社に思ってもらえれば、より積極的に支援してくれます。PR会社のスピード感は記者のスピード感と同じなので、それに的確に、素早く反応するために、返せるネタを常に仕込んでおく癖をつけておくと良いと思います。
逆にPR会社が記者から要望を苦労して拾ってきたにも関わらず「これは出来ない」「あれは準備出来ない」などと社内調整のわずらわしさやリスク回避を意識して突っぱねるような対応は絶対にしてはいけません。中長期的に、Win-Winとなる良好な関係をPR会社やメディアと作っていくという意識で仕事をすれば、結果的に露出も増えてくると思います。それがメディアリレーションズであり、パブリックリレーションズ活動の要諦だと思います。
規制緩和でビジネスを創り出す
ITのトレンドや、競合他社の動き等はもちろん把握していますが、もっと大きな視点も大事です。日本では、経費精算の際に、領収書を糊付けして社内申請するケースが多いと思いますが、この風景は来年以降なくなるかもしれません。
昨年末に発表された税制大綱において紙での領収書の保管義務が撤廃され、スマホのカメラ機能を活用したデジタル画像が原本として認められることとなりました。これはコンカーが新経済連盟、日本CFO協会、日本文書情報マネジメント協会などと共に、コンカーの利用企業や競合会社も巻き込みながら展開したロビー活動の成果です。
日本ではPRというとメディアリレーションズや広告と共に語られるケースが多いですが、本来的にはパブリックリレーションズですので、ガバメントリレーションズやメディアリレーションズがその中に含まれます。
ロビー活動ではまず、適切な調査を実施し、領収書の糊付作業がもたらす日本全体での社会コストを数字で試算し、問題の大きさを共感してもらう配慮を行いました。客観的なデータに基づき試算すると、日本全体で年間1兆円のコストが無駄になっていることが分かり、メディアの皆様に関心を持っていただきました。
その後、規制緩和に影響力の強い、主要メディアへのリーク、記者会見、勉強会などを繰り返すことで、日経新聞、週刊ダイヤモンド、ワールドビジネスサテライトなどで特集され、ロビー活動を進める上で大きな後ろ盾となりました。
これらメディアリレーションズ活動で規制緩和に向けた大きな流れを作ることができたと思っています。
従業員50名程度(当時)の外資系日本法人が岩盤規制をうち破り、日本企業の生産性向上に貢献する、というストーリーはメディアの方々に興味を持って頂けたと思います。より生産的な日本社会を実現するために競合会社をも巻き込み新市場を作っていく。こういう視点がPR活動に必要だと思っています。
インプットの量と質は足りているか
広報は客観的に自社の立ち位置を理解した発言と施策が求められるので、内部・外部情報に関するインプットの量と質が重要です。外資系企業の場合は、本社のコミュニケーション戦略を日本にそのまま適用するケースも見られますが、これは絶対に避けなければなりません。
日本でビジネス展開を行うには日本市場の特性を踏まえた独自のコミュニケーション戦略が不可欠です。本社はビジネス拡大のためのパートナーであり、広報は日本市場を理解する代表者の一人です。本社・グループ各社に対し、インターナルコミュニケーションを効果的に展開できれば、地域特性を踏まえたグローバルで一体感あるコミュニケーションが実現できます。
マーケティング・広報は経営者の参謀役であり、中長期の経営を支える重要な役割であることは変わりません。ただ、社会がデジタル化し、加速度的に変化していく中、旧来のマーケティング・広報の成功体験はもはや通じないと思います。
マーケティングはお客様の嗜好の変化を捉えるより高度なツールが多数整備され、データ分析を前提としながら、お客様にいかに最高の体験を提供できるか?が重要なポイントとなっています。
マーケッターの天性の感覚に依存した業務がより科学的に細分化されたことで、データサイエンティストやSEOスペシャリストなどの業務毎のスペシャリストの活躍の場も増えています。他方、広報は業務の特性上、細分化する類のものではなく、「ごちゃごちゃ」しています(笑)。
PRとは感覚的ですが、かなり上位概念であり、ステイクホルダーとの関係性の中で自らが位置づけられます。上位概念ゆえ、業務へ落とし込むのが難しいのですが、姿勢として、社会の変化を敏感にとらえ、様々なものに関心を持ち、より多様な集団とのコミュニケーションを行い、自分を取り巻くステイクホルダーとの関係構築を軸に、中長期的に会社と社会にどう貢献していくか?を自らに問い続ける努力が必要だと思います。私自身も広報に携わる身として、多様な価値観に良い影響を受けながら、成長していきたいと思っています。