【第3回】棗田(なつめだ)眞次郎 さん(エム・エム・ジェイ)
2015.09.29
大手食品メーカーのWebを作って20年。業界を見続けて気づいたのは良い対面のつながりと「思いつき」の重要さ
大手食品メーカーを定年退職し、エム・エム・ジェイというコンサルティングサービスを立ち上げた棗田さん。Web広告研究会の元代表幹事でもあります。
黎明期からのホームページ作り
棗田さんとWebサイトとの最初の関わりは約20年前。大手有名食品メーカーに勤めていた頃になります。当時はまだ一般的ではなかった企業のWebサイトですが、有志のプロジェクトが発端となり、棗田さんもその担当となりました。
「サイトがローンチしたのは1996年の4月でした。Webから問い合わせができる仕組みも作ったのですが、なんと受けていたのは自分でした。今考えると信じられない緩さでしたね。Webの黎明期にあらゆることに取り組めたのが自分の財産になっています」
その後、他社のサイトを研究して自社に足りないものを見つけ、企業の情報コーナーに安全や品質管理の話、原料の話を加える等、少しづつ拡充していきました。
「当時はまだWeb広告研究会(この後、棗田さんは同団体の代表幹事になります)に関わっていなかったのですが、関わっていたら倍くらいの速度でWebサイトを改善して行く事ができたでしょうね。社外の優秀な人との意見交換はとても有意義で、学べることが多いのです」
思いつきから生まれた、成功の素。
棗田さんは、Webと連携した新しいことにも積極的に取り組みました。その1例が、当時在籍していたメーカーのインスタントスープの素となる、北海道の自社トウモロコシ畑に関わる活動です。
当時はまだ監視カメラとしての需要が中心だったライブカメラをトウモロコシ畑に据え、お客様がwebサイトを通して種まきから収穫までの成長を見守れるようにしました。ここからの発展が、地元の小学生の職業体験です。種まきから始まって収穫、そしてスープになるまでを体験してもらいました。
「これらのアイデアは単なる『思いつき』から始まっているのです。でも、単に思いついてもやってみないと何も起こりません。この活動がその後もずっと続いた事も非常に嬉しい思い出です。ただ、今の時代は何でもKPIは?などと聞かれ、自由に思いつきを形にする事がやりづらくなっているかもしれませんね」
歴史を知っていることで活動に深みが出る
「最近、インターネットビジネスに関わる人は本当に『今』のことを良く知っていますよね。でも、インターネットの歴史について何も知らない事が多いのです。知ったからと言って、急に売上げがあがったりするわけではないですが、活動に『深み』が出て、後で知識も活きて来ると思います。そんなわけで顧問先でインターネットの歴史について講義をすることもあるんですよ」
第一線の人々と対面で接することの重要性
今も外資系の著名なデジタルマーケティング関連企業を単独で訪問してレクチャーを受けたり、新しい広告モデルについて議論を戦わせたりとWeb広告業界の第一線の人々との交流を続ける棗田さん。Facebookのグループ機能を用いて、若い世代と広告について意見交換を行うグループも立ち上げました。
「今、Web広告に関わっている人が非常にユニークな事をしているなと思うんです。単なる「広告」の時代が終わり、活動も複合的になっている。例えばスマホで言えば、単に広告だけをプッシュしても、関心は持たれませんし、逆効果。そこで、位置情報を使って天気予報と一緒に広告を出すとかの工夫が必要となっている。Webサイトで言えば、クッキーを利用して閲覧した人にとにかく広告を出すという所から進化し、個人の興味関心に合わせて出し分けるようなことも始まっていますよね。無駄な広告配信がなくなれば、出し手にとっても受け手にとっても良い事です。こういった内容を第一線の人に直接会って話すと理解が深まります。また業界の人で集う会での思いつきから新しいサービスが生まれるのを目の前で体験する事もありました」
自分だけ得をしようとしたらうまくいかない。
実は今困っている事はビジネス的に依頼される「人の紹介」とのこと。知名度があり、メール1本でWeb業界のキーパーソンのアポを取る事ができるのですが、仕事に役立つ人脈紹介ばかりを期待されてしまうと「ちょっと違う」と感じています。
「いきなりコネで売り込もうとか、相手のことを考えていない一方的なアポ取りは協力出来ないですよね。一発で大事な人間関係が壊れてしまう。そんなわけで、そういう要望は断るようにしています」
そういった人柄が、数多くの著名人との継続的なおつきあいを生んでいるように思います。